子豚の尾を麻酔なしで切断

  • Day:2016.02.05 16:28
  • Cat:

2014年の調査では、日本の養豚の81.5%で、麻酔なしでの尾の切断が行われているということです。(*1)
2007年の調査では77.1%でしたから、そのころより切断率が上がっているということになります。

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写真:Animal Equality

なぜ切断するのか
豚が他の豚の尾をかじるのを防ぐためです。
尾かじりは肉を毀損し、「利益」の損失につながります。
「尾かじりは膿瘍を作る原因となりやすく、膿毒症まで進行することも多いです。主に、化膿菌が尾から脊髄にかけて侵入し、臓器(肺や肝臓など)にも膿瘍を転移させると考えられています。膿毒症はと畜検査において「全部廃棄」になる病気で、長崎県でも全部廃棄になる原因の上位にあります。」(*4)


なぜ尾をかじるのか
豚本来の習性を発揮できる環境で飼育されていないからです。
建物の中・高い飼育密度・スノコの上・何もない豚舎、これらは豚の欲求を満たすことができません。
「餌を得るための探査行動は動物にとって強い欲求を持つ行動の一つである。特にブタは嗅覚が優れており、強靭な鼻を利用して土を掘り起こすルーティングやものを噛むチューイングといった行動に対して強い発現欲求を持っている。その行動を制限されることでブタは強い欲求不満状態に陥る。十分に発現できない行動に対してブタは、施設をかじることや他個体の尾や耳をかじること、もしくは攻撃行動といった行動に転嫁して発現するのである。」(*5)
「尾かじり」は飼育環境のストレスの指標であり、尾かじりする動物はその福祉が貧困であることを示しています。


切断の痛み
豚の尾には、先端まで末梢神経が伸びており、麻酔なしで行われている尾の切断は、痛みで豚を苦しめます。豚の尾を温水に浸した際の反応行動を見ると、尾が豚の全身に影響を与えることが示されます。尾の切断の痛みは切断時だけではなく、神経種形成により長期間の痛みも引き起こします。切断された末梢神経の再生過程で痛覚過敏が現れる可能性もあります。
また、豚はコミュニケーションに尾を使うことが知られており、尾の切断は豚の意思疎通を阻害します。
「尾の切断時の動物の痛みは中程度のようだが、神経腫形成により長期の痛みを経験する可能性がある」(*2)
「50%以上の尾の切断は、少なくとも切断後6時間の痛みを引き起こし、切断部分が多ければ多いほど痛みも増す。加えて切断部分が多ければ神経腫形成も増え、知覚過敏すなわち痛みへの感受性の増大と自発痛のリスクの増加につながる。尾の切断はまた、豚のその後の社会的行動に影響を与える。」(*3)
【参考】
尾の切断の位置(2007年全国調査:日本)
「先端から3 分の1 程度」53.3%、
「先端から3 分の2 程度」40.8%
「根本から」2.9%
*デンマークのように1/2以上の断尾は許可されていない国もあるが日本にはそういった規制はない。



断尾が尾かじりを減らすのは「切断された尾が神経過敏になっているため」
一般的に断尾は尾かじりを減らすと考えられています。それは、断尾された豚が尾かじりされるのを避けようとするためだとも言われています。
「切断された尾は接触や口の刺激に対してより過敏になり,断尾された豚は,断尾されていない豚よりも尾かじりで傷つくことを避けようとするようだ。さらに進んだ研究において,Simonsen(1995)は断尾された尾とされていない尾では、豚が尾を口の中に入れた回数に違いはなかったと発表した。この結果は、尾かじりを減らすのが、切断された尾の感受性の増加に因することを示唆している。」(*6)


ほんとうに尾かじりは断尾で防げるのか?
尾かじり対策として、現在も尾の切断が当たり前のように続けられていますが、疑問の声もあります。
「すでに1959年、ヨーロッパではこれを疑問視する声が出ていた。そして尾の切断をされた豚において、今日でもやはり尾かじりと尾への損傷はおこっている。オランダの豚の99%以上で尾の切断が行われているにも関わらず、依然としてオランダの養豚場の1~2%で尾かじりの問題を抱えており、一方35~50%の養豚場では尾かじりの問題が起こったことがないと報告している。((Brackeら 2013)」(*7)
「ブタが尾かじりを行う原因は正常行動の不十分な発現だけではない。尾かじりを予防するための断尾が、その尾かじりを助長させているという報告もある。イギリスの92農場を対象として尾かじりが起こる危険因子を調査したところ、断尾を行うことによって尾かじりが起こるリスクが3倍にも増加していた。ほかの要因としては、離乳までの栄養障害も指摘されている。出生から離乳までの増体が285g/日の個体よりも260g/日の個体、つまり成長が悪かった個体で尾かじりを多く発現していたという報告もある。」(*8)


適切な環境を用意すれば、尾の切断は必要ない
「断尾が完全に禁止されているフィンランドの、2013年の2つの大きな食肉処理場データによると(豚約1,6万頭のデータ)尾かじり率は2,3%であった。これらの農場は、1頭当たりの飼育密度が0.8-0.9 m 2。(一般的な飼育密度よりも低い:アニマルライツセンター注)毎日豚が遊べる材料が与えられ、十分な給餌スペースが確保されている。」(*9)
2014年、EFSAの報告書は、適切な環境を与えれば、尾の切断をしなくても尾かじりを管理することができると結論づけています。(*10)


尾かじりしない、適切な環境とは

ワラや遊べる素材、スペースの確保などのより良い環境(エンリッチメント)
「断尾されていない豚が,適切な飼料が供給され,十分な給水量があり,ワラまたは動かして遊べる素材,あるいは鼻で地面を掘れるような環境が与えられており,適正な密度で飼養されている時,尾かじりの問題はほとんど無い(Putten 1980,Feddesand Fraser 1993, Fraser 1987 a, b, Fraserand Broom 1990)」(*6)
「ワラの欠如は、尾かじりのリスクを高める。しかし、ワラの量(限定された量の藁よりも床すべてを藁にするほうが良い)とその質(みじん切りよりも長い藁のほうが良い)も重要でもある。」(*2)
「わらや麻袋などが用意された、より良い環境(エンリッチメント)では、尾かじりや尾の損傷を大幅に減少させることができるが、完全には排除できない。従って、可能な限り豚房の他の仲間への注意をそらすために、エンリッチメントな素材を提供することが非常に重要」(*7)
「ワラの使用は、尾かじりを許容範囲内で管理する方法の一つです。ワラと自然光を提供する養豚場では尾を切断された豚で1.2%、尾を切断していない豚で4.3%と尾かじり率を下げることができた。(全体の平均は尾を切断した豚で2.4%、切断されていない豚で8.5%)。また、適切な給餌スペースを確保することで、尾の切断されていない豚の尾かじり率が3.9%まで減少させた。」(*9)

早期育成期間中の対策
「最近の研究では、豚の早期育成期間が尾かじりの対策に重要であると言われています。生後4週間の間に藁などの敷料を与えられていたブタは、肥育小屋の中で有害な社会的行動の率が低いということです」(*9)。
「離乳後の過度な尾かじりは、麻のロープや新聞紙で減少させることができます」(*9)

スノコ床
スノコ床は糞尿の管理がしやすいため利用されていますが、本来土の上を歩く豚にとってはストレスとなります。
スノコ床は尾かじりのリスクとなることも報告されています。(*2)
日本ではスノコ床が多用されており、スノコの使用に利用制限はありません。しかしEUではスノコ床の面積制限があります。またデンマークは2020年までにスノコ床を完全廃止する予定になっています。(*13)
【参考】
50%以上がスノコ床の割合(日本2014年調査*1)
離乳~30kg:59.1%(うち44.6%が100%スノコ床)
31~70kg:33.4%(うち16.6%が100%スノコ床)
71kg以上:26.2%(うち11.2%が100%スノコ床)


その他、食事にナトリウム(塩)や必須アミノ酸が足りないこと、夏の間の飲料水の品質や水の欠乏が、温度、飼育密度、繊維質の食べ物の過不足などさまざまなことが尾かじりのリスクとなると考えられています。(*2)


豚の断尾について、各国の法規制
日本:なし
EU:尾の切断は日常的に行われてはなりません 尾かじりが発生したという証拠があるときだけ。(*11)
デンマーク:尾の損傷が実証されたときのみ切断可能。ただし1/2以上の切断は許可されない。
スウェーデン:尾の切断は許可されないlaw SFS 1988:534 §§ 2, 4, 10
フィンランド:動物の尾の切断は苦痛を引き起こすとして禁止 law 2002:0910
リトアニア:尾の切断は禁止
ノルウェー:医学的な理由があるときだけ、麻酔と長期の鎮痛剤を使って切断することができる。 Regulation for Housing of Swine from 2003, § 10 (デンマークからノルウェーまで *2)
カナダ:2016年7月1日から、年齢かかわらず痛みを制御する鎮痛剤を用いて行われなければならない。(*12)
オランダ:尾の切断はまだ禁止されていないが、オランダ農業園芸連盟、オランダ養豚組合、そしてオランダ動物保護協会が、尾の切断を減らすとした2013Dalfsen宣言にサインしている(Dalfsen宣言はオランダ省にサポートされている)(*7)


まとめ【尾を切断し続けるのか?やめるのか?】
ストレスのない放牧養豚に切り替えるならば、もはや尾かじりの心配をする必要はありません。放牧養豚では尾かじりが起こらないことが知られています。しかしそれができずに舎飼いを続けるのならば尾かじりにどう対処するのかを考えなければなりません。
断尾は尾かじりに効果がないという調査もあるものの、「完全に防ぐことはできないが、ある程度効果はある」という報告が一般的のようです。利用可能な屠殺場データによると、断尾で尾かじりのリスクを1/2にすることができるということです(*9)。
断尾は非人道的な所業ですが、尾かじりされた豚が苦しむのもまた間違いありません。尾かじりされた豚は急性の痛みに加えて感染症のリスクが有意に高くなります。
しかしその尾かじりを防ぐために行われる断尾も豚を苦しめています。
「断尾は神経腫形成の有病率の増加を引き起こし、尾の切断部分が大きいほど、神経腫形成の有病率が高いことも報告されている。尾の切断が、主要な組織損傷につながる危険があることは明白であり、非衛生的な尾の切断は、脊髄膿瘍や関節炎の潜在的なリスクであることも示唆されています」(*9)。
ヨーロッパ諸国のと畜場では尾かじりが1~2%、日本国内での尾かじりの発生率は2~3%と言われています。(*14)尾の切断をして一部の豚の尾かじりを防止するのか、尾の切断を止めてすべての豚の福祉を向上させるのか、「最大多数の幸福」という観点からなら、どちらを選ぶべきかは明らかだといえます。

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画像出典(*9)

明らかなのは、舎飼いであっても、できるだけ豚の習性を発揮できる適切な環境を用意すれば、断尾をしなくても尾かじりのリスクを減らすことができる、ということです。
より良い環境を整備する前に、尾を切断してしまうという乱暴な方法ではなく、より人道的な方法を、私たちは選択することができます。





*1 飼養実態アンケート調査報告書 2014年
http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/index.htm
*2 EFSA(European Food Safety Authority)「The risks associated with tail biting in pigs and possible means to reduce the need for tail docking considering the different housing and husbandry systems」2007年
http://www.efsa.europa.eu/sites/default/files/scientific_output/files/main_documents/611.pdf
*3 PIG PROGRESS「Tail biting and tail docking」2013年
http://www.pigprogress.net/Growing-Finishing/Environment/2013/1/Tail-biting-and-tail-docking-Biology-welfare-economics-1162311W/
*4 長崎県食肉衛生検査情報発信委員会「食肉衛生検査情報」2013年
*5「畜産技術」2014.9月号
*6 EU獣医科学委員会レポート「THE WELFARE OF INTENSIVELY KEPT PIGS」1997年
http://ec.europa.eu/food/fs/sc/oldcomm4/out17_en.pdf
*7 ワーニンゲン大学博士論文「A tale too long for a tail too short?」2014年
http://edepot.wur.nl/314089
*8「畜産技術」2014.9月号
*9 http://porcinehealthmanagement.biomedcentral.com/articles/10.1186/2055-5660-1-2
*10 EFSA(European Food Safety Authority)「Scientific Opinion concerning a Multifactorial approach on the use of animal and non-animal-based measures to assess the welfare of pigs」2014年
http://www.efsa.europa.eu/de/efsajournal/pub/3702
*11 http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32008L0120
*12 code of practice
https://www.nfacc.ca/codes-of-practice/pig-code
*13 独立行政法人農畜産業振興機構「畜産情報」2013年9月号
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2013/sep/wrepo01.htm
*14 「畜産技術」2014.9月号

その他参考資料
「Tail Docking in Pigs: A Review on its Short- And Long-Term Consequences and Effectiveness in Preventing Tail Biting」Dipartimento di Scienze Mediche Veterinarie, Università di Bologna, Italy
http://www.aspajournal.it/index.php/ijas/article/view/ijas.2014.3095/2748

Wageningen UR (University & Research centre).
https://www.wageningenur.nl/en/Dossiers/file/Preventing-tail-biting-in-pigs.htm

「NEW EU PROJECT AIMS TO REDUCE TAIL BITING AND DOCKING OF TAILS IN PIGS」Aarhus University
http://dca.au.dk/en/current-news/news/show/artikel/new-eu-project-aims-to-reduce-tail-biting-and-docking-of-tails-in-pigs/





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