日本のアニマルウェルフェアは向上しているのか?

  • Day:2015.05.07 23:23
  • Cat:畜産
日本のアニマルウェルフェア(畜産動物福祉)の遅れは国内外で指摘されている。農水省もこの問題を重く見て、アニマルウェルフェアに取り組んでいるところである。
しかし実質、向上しているのだろうか?

日本の現状を、2015年3月に発表された畜産動物の「2014年飼養実態調査」(*1)をもとに検証した。

その結果は下記2点に集約された。

・6~8年前の調査(*2)時の福祉レベルからほとんど変化がない。
・世界のアニマルウェルフェアの流れに依然として追いついていない。


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検証内容


妊娠豚 (1)

母豚の妊娠ストール使用率 
2007年:83.1% 

2014年:88.6%

7年前とかわらずほとんどの農家で実施されている。
一方海外では、EUをはじめ、カナダ、アメリカの9つの州、オーストラリア、ニュージーランドも妊娠ストール廃止を決定。企業単位での廃止も加速している。

子豚の尾の切断率
2007年:77.1% 

2014年:81.5%

7年前とかわらずほとんどの農家で実施されている。
適切な飼料が供給され十分な給水量があり、ワラまたは動かして遊べる素材あるいは鼻で地面を掘れるような環境が与えられており、適正な密度で飼養されている時、尾かじりの問題はほとんど無く、尾の切断の必要がないことが明らかになっている。
切断は麻酔無しで実施されており、その痛みは切断時だけではなく、断尾された動物の多くは神経腫を形成し痛みが延長するということが実証されており、動物福祉上大きな問題である。

子豚の歯の切断率
2007年:88.1% 

2014年:63.6%

7年前に比べ、25%も大幅に減少している。
麻酔無しで行われる歯の切断も痛みを伴う。実施する農家が減ったのは進歩である。

子豚の去勢率
2007年:98.8% 

2014年:94.6%

7年前とかわらずほとんどの農家で実施されている。
去勢は必須の行為ではない。痛みを伴う外科去勢ではなく、ワクチンで雄臭を消す方法もあるのだ。このワクチンはオーストリアでは 10 年以上にわたって広く一般的に利用され、EU の各諸国 でも使用が拡大している。日本でもこのワクチンは2010年に認可されているが、普及に至っていない。
豚の去勢は麻酔なしで行われているが、去勢後の豚は震え足がぐらつきおう吐するものもいる。去勢は豚に大きな痛みを与える行為であるため、ノルウェー、スイス、カナダ、ドイツ、スウェーデンでは麻酔なしでの去勢禁止を決定している。

71kg以上の肥育豚1頭あたりの飼育面積が、0.65㎡未満の割合
2007年:2% 

2014年:20%

7年間で過密飼育が大幅に増えている。
0.65㎡は半畳にも満たない。体重71kgの豚であれば、横臥するのに必要な面積は約0.82平方メートル(*3)である。横臥もできない環境で飼育をされている豚が少なくとも20%はいるというのは大きな問題である。




乳牛 (21)

搾乳牛の「つなぎ飼い」率
2008年:73.9% 

2014年:72.9%
 
日本の乳牛の主な飼育方法はいまだ「つなぎ飼育」である。
牛には草を食む権利があるとして放牧を義務付けている国もあるが、日本にはそういった決まりはない。日本は山林が多く放牧が難しいとされているが山地酪農を成功させている例もあり、放牧酪農は実現可能な生産方式である。

角の除角率
乳牛の除角
2008年:93.9% 

2014年:85.5%


肉牛の除角
2009年:48.0%

2014年:59.5%

除角される牛は、乳牛で減少、肉牛で増加している。
除角は大きな痛みを伴い、苦痛で失神してしまう牛もいるほどである。にもかかわらず除角の8割が麻酔なしでおこなわれている。
2013 年 に採択されたOIEコード「肉用牛の生産方式」(*4)には“生産者は、肉牛を除角する必要がある場合、牛の種類と生産方式に応じて最適な方法と時機について獣医顧問(アドバイザー)から指導を求めなければならない。牛は、実用的な場合、角が発達初期の蕾の段階、またはこの年齢を超えて最初に飼養する機会に除角すべきである。これは角の発達段階において角芽の状態であれば、組織的外傷を最小限にでき、角が頭骨に接していないからである。”と規定されている。しかし、日本では獣医師の指導を仰ぐことなく、生産者が自分で除角をおこなっている。
また上記のOIEコードにあるように除角をするならば早い時期のほうが痛みが少ない。2011年に日本で策定された「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」(*5)にも“除角によるストレスが少ない と言われている焼きごてでの実施が可能な生後2ヶ月以内に実施することが推奨される。”と書かれている。
しかし2014年調査によると乳牛では45%、肉牛では85%が3ケ月齢以上で除角されている。
また、牛の角の切断そのものをしなくともよい「角カバー」が2008年から日本で販売されているが(3頭分2500円)普及にいたっていない。



採卵鶏
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バタリーケージ使用率
2008年:90.2% 

2014年:92%

6年前の調査とほとんど変わらず、日本ではバタリーケージ飼育が主流である。
一方、ヨーロッパではケージフリーが加速しており、オーストラリラとニュージーランドでも過去5年間で放牧と平飼の割合が増加している。アメリカでは、すでにいくつかの採卵業者はエンリットドケージ(*6)に投資を始めている。

平飼い卵の飼育密度
2014年に初めて行われた平飼卵の飼育密度調査であるが、41.5%1000㎠/羽以下という結果であった。そして実に15.1%370㎠/羽という超過密飼育であった。
370㎠というと、19cm×19cm程度である。
「バタリーケージ飼育のほうがマシ」というような「平飼い」があることが以前から指摘されていたが、今回の調査で平飼いの問題点が浮き彫りになった。EUの平飼いの定義は1111㎠/羽だが、日本で「平飼い」表示するには「鶏舎内または屋外で鶏が自由に地面を運動できるように飼育」されていればよく、具体的な数値は設定されていない。そのためを”自然な状態で飼育された卵”を求めて「平飼卵」を購入する消費者を、結果的にあざむくことになってしまっている。

強制換羽ー低栄養飼料切り替え法の採用率
2008年:約9% 

2014年:12.9%

断食を伴わない、福祉的な低栄養飼料切り替え法による強制換羽の割合が若干増えている。
一方、強制換羽自体の割合は2008年調査時が60%、2014年調査時は66%と増加している。

デビーク(くちばしの切断)率
2014年の調査で採卵鶏の83.7%デビークされていることが明らかになった。
麻酔なしで行われているデビークは、雛に苦痛を与える。デビークされた雛は痛みでしばらく食欲を失う。動物福祉の観点から、イギリス、オランダ、ベルギー、スカンジナビア諸国などの北欧は、2016年もしくは2018年にビークトリミング自体を完全禁止にする方向で議論が進められている。しかし日本には今のところそのような動きはない。


ブロイラー
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ブロイラー写真提供:Compassion in World Farming

暗期の設定率
2014年に初めて行われたブロイラーの暗期の設定調査であるが、68.1%で暗期の設定がされていないことがわかった。EUのブロイラー保護指令(*7)では暗期の設定が必要と規定されている。また、2013年に採択されたOIEコード「肉用鶏の生産方式」(*8)にも“肉用鶏の休息のため、24時間周期ごとに、適切な長さの連続した暗期を設けるべきである。”と書かれている。ブロイラーの多くが休息を与えられていないのは、福祉上大きな問題である。

飼育密度
2008年:約46kg(15~18羽)/㎡ 

2014年:約47kg(16~19羽)/㎡ 

6年前と変わらずの過密飼育状態が続いている。
EUのブロイラー保護指令(*7)では33kg/方センチメートル(11~13羽)以下と規定されている。
家畜伝染病予防法に基づく「飼養衛生管理基準」には「家畜の健康に悪影響を及ぼすような過密な状態で家畜を飼養しな いこと」と規定されているが、現状の1㎡あたり16~19羽というブロイラーの飼育密度は、家畜伝染病予防法にも反するといえるのではないか。


補足
日本のと畜場での飲水状況(*8)
牛:50.4%が飲水できない
豚:86.4%が飲水できない

(食肉衛生検査所調査 2011年)
2005年に策定されたOIE(国際獣疫事務局)の陸生衛生動物規約「動物福祉」の「と殺(Slaughter of animals)」の章には
・哺乳動物をと殺場に搬入後、すぐにと殺しない場合は、給水されなければならないと規定されている。しかし日本はいまだこの国際基準に反した状態が続いている。



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非常に残念であるが、日本の畜産動物福祉はいまだ世界に後れをとっている。2015年度の日本の畜産動物福祉予算は2000万円。予算が充てられるようになったのは進歩だが、EUの年間予算140億円にくらべるとまだまだ国として本腰を入れてこの問題に取り組んでいるとはいい難い。
それが今回の検証結果に表れているといえよう。

OIE(世界動物保健機関)、FAO(国連食糧農業機関)といった国際機関をはじめとして海外では畜産動物福祉が加速している。ISO(国際標準化機構)はOIEとの協働で2016年をターゲットに動物福祉の国際基準作成に動いている。

こういった流れに追いつくためには、今以上に予算と時間をかけて国を挙げてこの問題に取り組む必要がある。日本人の動物愛護の精神は他国に勝るとも劣らない。わたしたちNGOの啓発はもちろん、産学官民一体となって取り組めば、命あるものへの思いやりを発揮できる国づくりは、そうは難しくないはずだ。





*1 飼養実態アンケート調査報告書 http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/index.html
*2 前回の飼養実態調査2007年~2009に実施されている。
*3 公式:面積(m2)= 0.047 ×生体重0.67
*4 OIEコード「アニマルウエルフェアと肉用牛生産方式」 http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/oie/pdf/ref5_aw.pdf
*5 「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」 http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/index.html
*6 エンリッチドケージ:バタリーケージをより福祉に配慮したシステムに改良したもの
*7 EUブロイラー指令 http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2007:182:0019:0028:EN:PDF
*8 OIEコード「アニマルウエルフェアと肉用鶏生産方式」 http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/oie/pdf/ref5_aw.pdf
*9 と畜場での問題 http://www.hopeforanimals.org/animals/slaughter/00/id=367



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